本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇スタッフの小さな成功体験

 朝から雨が降っている。
「ただいま、帰りました」
「ご苦労様」
リーダーの寺島明日葉は、店舗周囲の掃除から帰ってきた、アルバイトスタッフの立川洋子に声をかけた。
「大変じゃない?」
「これくらい大丈夫です」
「今日は雨だから大変だろう」
 事務所にいた森川副店長が声をかけた。
「副店長、小雨ですから、そうでもありません。
 それに私、基本的に掃除が好きですから」
「それは良かった。新店長の方針だからね。とりあえず頑張って」
 そういうと森川副店長は寺島リーダーに、競合店が7の日で出玉をしているから 様子を見に行ってくると言って事務所を出た。

「立川さん、なんかうれしそうですね」
 明日葉は、立川洋子の声をかけた。
「わかりますか?」
「何?」
「たいしたことではないんですけど、 今朝、交差点のタバコのゴミを掃除しているとき、 知らないおばあちゃんから“ご苦労様”って声をかけられたの」
「へーそうなんだ」
「何回か見られているようで、今日は雨の中でゴミを拾ってたんで、 思わず声をかけたと言われてました」
「やっぱり、見てる人はいるんだ」
 明日葉も何となくうれしくなった。

 明日葉は、土砂降りの雨の中で、 関根店長に声を掛けられて以来、どうも店長がクリンリネスを自らチェックしているように感じて、 スタッフには何があっても道路掃除をするように指導している。
 スタッフには少し厳しいかもしれないと思ったが、 地域の人から評価をもらえるというのは悪くないと思った。

 ◇◇◇ 感謝の種をまく

「吉村主任、頼みたいことがあるんだけど」
 そう言って翔太は吉村主任を自分のデスクに呼んだ。
「連休までに発注しておいて欲しいものがある」
 翔太は、机の引き出しから、『感謝カード』と取り出した。
「これは、大滝店で使っていた『感謝カード』ですね。 もしかしたら、これを久米坂店でも使うんですか?」
 翔太は、ニコッとした。

 この『感謝カード』は複写式になっており、相手の名前と日付、 感謝の内容と自分の名前が書けるようになっている。 複写になっているのは、相手にカードを渡した後、手元に残し、 自分が誰にどれだけ感謝をしたのかを、管理できるようにするためである。
 自分で感謝した量を把握することで、自分の感謝の場面に気づく頻度を管理できるし、 意識的に感謝の場面を目撃する回数を増やすことができる。
 感謝のカードをもらうのもうれしいが、感謝のカードを書けることも能力のアップの証となるので、 管理をしていると充実感がある。

 当初大滝店で『感謝カード』を作ったときは、複写式ではなく、 ただカードを書いて渡すだけだった。いくらカードを書いても、 自分が感謝を発見した記録が残らなかったので、長い間カードの交換の枚数が低迷していた。
 ところが複写方式にしたとたん、一気にカード交換量が増えた。 それをこの久米坂店でもやろうと翔太はしていた。

「感謝は、すべてのコミュニティホール活動に必要だから、 そろそろスタッフに浸透をさせていきたいと思ってね」
「わかりました。いつまでに納品をしてもらえばよいですか?」
「5月の第3週の火曜日にスタッフ研修をしようと考えている。 その時に感謝カードをスタッフ間で使うことを業務の一つとして組み入れる予定にしている」
「しれじゃ、第2週の金曜日までに仕上げて、久米坂店に送ってもらうように手配をしておきます。 大滝店と同じデザインで大丈夫ですね?」
「それでいいよ」
「大滝店と同じ業者に頼んで見ます。数量はとりあえず2000枚もあれば大丈夫ですね。」
「頼んだよ」
「わかりました」
 吉村主任は手早くメモを取った。

「それともう一つ」
「何でしょうか?」
 翔太は、事務所を出てスタッフの休憩室に移動した。 ちょうどスタッフは出払っている。
休憩室に入って右手の大きな壁を指さして、
「ここに各スタッフに渡すために感謝カードを入れる“カード入れ”を作ってもらいたいんだ」と言った。
「タイトルはどうしましょう」
「『感謝カード入れ』としておいてくれ」
「説明か何か付けましょうか?」吉村主任は気を回した。
「不要だ。人は分からないとは知ろうとする。何だろうと興味を持ち続ける。 だから、分からないままにしておいて、スタッフ研修の時に説明するよ」
「それでは、5月1週目ぐらいに用意しておけばいいですね」
「頼んだよ」
 翔太はお客様とスタッフの様子を見るため、そのままホールへ向かった。

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