本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇ 店舗会議(5月)

 翔太は月初めの店舗会議をしていた。参加者は主任以上と、浅沼店の星野店長と宝田主任である。
 まず、翔太から会社からの伝達事項の報告。そして、グループ店の状況報告。 先月の粗利と稼働の報告をし、今月の粗利と稼働目標の報告をした。
 また、コミュニティホール作りの一環として、スタッフ研修の実施。 それに伴い感謝の気持ちを養うために『感謝カード』の交換を始めることを伝えた。 さらに、8月の下旬にクリンリネス強化の一環として、 外装の一部と内装の一部のリニューアルを予定していることも付け加えた。
 続いて、森川副店長が、今月の店舗の新台入替予定、 屋台イベントやポイント交換日、総付け景品の日取りなどの報告をした。

  そして、個別施策報告として、まず、森川副店長から会員情況の報告があった。 先月の会員の獲得数は41名と、これまでよりは取れている。
「今月の新規会員の目標は、いくらにしましたか?」
 翔太は森川副店長に訊いた。
 森川副店長は、先月の終わりは、調査結果を見て、スタッフが頑張ったので良くなってきたが、 個人的にはもう少し見極めたいので、目標設定については待って欲しいということになった。

「ところで森川副店長、『会員管理実践講座』はいかがでしたか?」
「以前から聞いて知っていることが多かったですね。 でも、参考にできるものも、中にはあったように思います」
「尾田主任はどうでした?」
「そうですね。私は、知らなかったことが多かったですね。
 会員育成の発想は面白いし、コミュニティホール作りの参考になると思いました。 会員管理を使った検証法や会員管理の戦略的使い方は、面白いと思いました。 検証視点もまだまだ自分が気づかないことが多いと思いました。受けて良かったです」

 翔太は報告を聞きながら、尾田主任は、ヘビとウナギの区別ができていると思った。 それに比べると森川副店長は、ヘビとウナギが同じに見えているらしい。 もう少し森川副店長のサポートを尾田主任にさせる必要性を感じた。

「それでは、森川副店長と尾田主任は、今後のことも踏まえて、 『会員管理実践講座』の中にあった”会員育成のストーリー(プロセス)”と、それに必要な資料を作ってください。 ステップは5ステップあったと思います。
 来月の入会者からホールの考え方伝えていきたいので、 少なくとも今月中には2ステップまでの資料を作ってください」
 尾田主任から大滝店で作成された資料があれば、見せて欲しいということなので、 翔太は大滝店の田所店長に送ってもらう手配をすることを約束した。

補足:「会員育成のストーリー(プロセス)」
 新しく入会した会員を自店のファンにするために、 どのような手順で自店の情報提供していくのかを考えて、毎月情報提供を行うもの。 育成用情報は、5回を目安とし、6か月目は、 現在通常会員向けに流している情報と同じレベルものを提供する。 つまり、5か月を掛けて、既存会員と新規会員の情報格差をなくし、 ホールの理解を深めて自店の活動に共感を持ってもらう仕組み。

 ◇現場確認の必要性

「それでは、西谷主任の報告をお願いします」
 西谷主任は、クリンリネスの徹底について、順調に推移している旨の報告をした。 西谷主任は言われたことは真面目にこなしている。 でも翔太には気になることがあった。 西谷主任がクリンリネスのチェックをしている様子を、あまり見かけないのである。

「西谷主任、ちょっといいですか?西谷主任は、クリンリネスをどのように確認をしていますか?」
「掃除のチェックリストを作っていますので、それを基に確認しています」
 西谷主任は躊躇ちゅうちょなく答えた。
「実際の現場をチェックしていますか? 自分自身でなくても、他の主任やリーダーに手を借りていてもいいですけど」
「自分自身はたまにしています。でも、毎回現場を確認してはいません」

「なるほどそうですか。掃除をしていることと、駐車場やトイレがきれいなっていることは、同じだと思いますか?
「・・・」西谷主任は言葉に詰まった。

「関根店長、西谷主任も忙しいし、いちいち現場を見には行ってられないよ。 それくらいスタッフを信じないと、業務は回らないじゃないですか」
 森川副店長が西谷主任のフォローに入った。翔太はまたかと思った。 森川副店長と議論をしても意味がないので、無視することにした。

「西谷主任、掃除は手段ですね。トイレ掃除で言えば、トイレをきれいにする手段ですね」
「はい」西谷主任は森川副店長をちらりと見た。
「その手段の実行、つまり作業にはレベルがあります。 掃除でも汚れが取れるまで徹底してきれいにする人もあれば、 とりあえず雑巾で拭けば汚れの落ち方に関係なく、それで掃除をしたという人もいます。そうですね」
 翔太は西谷主任の理解が進むようにゆっくりしゃべった。
「そうだと思います」西谷主任はうなずいた。

「クリンリネスは、掃除などをした後の『輝くような清潔さ、素晴らしい快適さ』を意味する言葉です。 掃除という作業にバラツキがある以上、クリンリネスを実現しているかを確認するのは、当たり前ではありませんか?」

 西谷主任は一瞬固まった。そして翔太が何を言おうとしているのかようやく分かった。 俺は掃除をすることを目的として管理している。手段の目的化だ。それを指摘されている。
「なるほど、そういうことですか。わかりました」
 西谷主任は苦笑いをしながら返事をした。翔太の言うことがに落ちた。

「もし、バラツキがあれば、それをなくすように指導していくことで、レベルが上がっていくということですね」
「その通りですね」
「掃除担当者の名前はチェック表に記入させているんでしょう。 だったら、誰を指導すべきか分かるわけですから、それを活かしてください」
「なるほど、分かりました」
 そう言うと西谷主任は、メモに書き込みをした。

「作業レベルにバラツキが無いとわかれば、西谷主任がしているようなやり方でも、大丈夫でしょう。
 ただ、人は機械ではないので、気のゆるみやうっかりミスが出るかもしれないので、 定期的な現場チェックはするようにお願いします」
 そういうと会議メンバーを見回した。

 森川副店長は、自分の発言を無視されたので、不服そうに聞いていた。 それを翔太は見ながら、この人は部下をかばうことが、 管理者の役目だと思っているのではないだろうかと不思議に思った。
 その先に待っているのは、能力の低い集団のなれ合い経営になってしまうことは容易に想像がつく。
 もし、北条真由美がいたら、考え方の甘さを徹底的に攻められて、 ボコボコにされているのだろうと翔太は勝手な想像をしていた。

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