本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇ 競合店視察と高坂部長

「あれ、高坂部長、じゃないですか」
 森川副店長は、所轄の警察に書類を提出したかえり競合店を見に行ったとき、 競合店視察に来ていた高坂部長に偶然であった。
 高坂部長は森川副店長を近くのマメダ珈琲に誘った。

「森川くん、元気にやっているか」
「そうでもないです」
「そうか・・・。でも、頑張らないと、新店ができたら関根店長はおそらくそちらに行くことになる。 その時は君が店長になるんだから、もっとしっかりしないとダメじゃないか」
「そうなりますかね」
「そうなるに決まってるじゃないか」
「でも、関根店長が上手くいかなかったらどうなるんですか?」
「そうなったら、コミュニティホール推進室室長を専任にでもなって、頑張るだろうから、やっぱり君が店長じゃないか」
「そうでしょうかね」
「今日は暗いな」

「関根店長がしていることは、パチンコ屋のすることなんでしょうか? コミュニティとか言ってますけど、うちはパチンコ店ですよ。 もっと機械選定とか釘整備とかいろいろやることがあるんじゃないですか。
 昨日も、ニュースレターとかいって会員に手紙を出していましたけど、お客様からお𠮟りをもらってますからね。
 それに業績も全然上向いてこないし、あれで大丈夫なんですか?」
 森川副店長は、日頃の鬱憤うっぷんをぶちまけた。

「俺にそう言われてもなぁ。山崎君の管轄だからなぁ」
「その管轄ですけど、このままでは、私が店長になったとしても、 コミュニティをやる羽目になるわけでしょう。勘弁してくださいよ」
「まあ、そういうな。本町店を地域一番店に戻したら、 社長に頼んで、久米坂店は第一営業部管轄に戻してもらうよ」
「是非、お願いします。
 やっぱりこの会社は、高坂部長が、ビシッとこの会社を締めないと、ダメなんじゃないですか」
 森川副店長は、高坂部長にさんざん愚痴を言って別れた。

 ◇◇◇定例進捗ミーティング(5月2週目)

 月初めの大型連休も終わり、営業的には一段落している。 しかしながら、予想通り厳しい営業内容になっている。 最近メーカーから大型のヒット台が出てないこともあり、昔のような盛況感はない。 競合店も同じで、地域パチンコユーザーの減少で前年を少し下回っている。 そして、ここにきて強い店とそうでない店の格差が一層顕著になってきている。

 翔太は連休の営業成績を確認した後、事務所のミーティングテーブルで、いつもの進捗チェックを始めた。 参加メンバーは、副店長と3主任。浅沼店からは、星野店長の代わりに宝田主任が来ている。
 まず、森川副店長に会員の募集状況を尋ねた。 森川副店長は、アンケートをスタッフに見せて認識を新たに持たせた結果、 会員数は日に平均して2~3件ぐらいはとれるようになってきたと報告をした。 目標数値について尋ねるととりあえず70件という答えが返ってきた。 これはまずいと思った瞬間、翔太の頭の隅にいる小さな北条真由美の声が聞こえてきた。

・・・・・・◇・・・・・・

『関根主任は、目標と予測の違いはご存知かしら?
 私は、その目標数値を聞いて、てっきりご存知ないと思っていました。
 関根主任の立てた70件という数字は、日に2~3件獲得できるということを踏まえた、今月末の予測数じゃないかしら。
 そんな数値に立て方では、業績の改善はできないし、第一工夫もできないでしょうね。
 成り行き任せでしょうから』
 森川副店長の報告を、もし北条真由美に自分がしたなら、たぶんそう言われるだろうなと翔太は思った。 むろん続いて言われる言葉も分かる。
『目標は意志なんです。これこれをやり遂げるという。
 だから、現状がどうあろうと、それをやり遂げたいという意志を数字化するものです。
 当然ギャップがでることもあります。
 例えば、目標を120件としても、現状の推移でいけば70件しか獲れない。 ギャップが50件生じる。それをどのようにして改善して、そのギャップを埋めるかと考えるときに、初めて人間知恵が出ます。 知恵は使わないと先細ってきます。
 関根主任の頭は大丈夫かしら。 コミュニティホールは、ボーっとしていてできるものではありません。
 成り行き任せの思考を脱皮していただかないと、現状維持が精一杯になって、何も進まないのですけど』

・・・・・・・◇・・・・・・

 翔太は、頭に中の妄想を中断し、森川副店長に予測と目標の違いを説明した。 森川店長は不服そうに聞いていたが、しぶしぶ目標の再設定に同意した。 会員育成プロセスに基づく、会員育成用の配布物の準備の進み具合については、 資料は大滝店の田所店長からメールで届き、それを基に尾田主任と打合せ、 吉村主任の意見を参考にしながら進んでいるということであった。

 次に吉村主任から社内AED勉強会のスケジュール報告と、 今週の水曜日に消防署にAED講習会の打合せに行く予定であるとの報告を受けた。
 接客については、定期的にチェックをしており、基本接客は問題がないこと。 ただ、新人アルバイト用のマニュアルの完成が少し遅れているとの報告があった。
 遅れている原因を聞くと、機械トラブルで時間をとられ、パソコンへの入力時間が確保できなかったこと。 しかし、すでに時間確保はしているので、今週末には完成する予定であるという答えが返ってきた。

「吉村主任、機械トラブルなどでアルバイトスタッフから呼ばれる件数は、日にどれくらいある?」
「正確には数えていませんが、少なからずあるみたいです」
 他の主任を見ると、頷いている。
 しかし、トラブル件数までは把握していないようである。 これは問題が見えていても、問題と感じていないパターンだなと翔太は思った。
「機械トラブルによる呼び出しをしているということは、お客様の大切な遊技時間を無駄にしているということだよね。 それにトラブル処理ができないスタッフをお客様は信頼するかと言えば、しないだろね。吉村主任」
「そう思います」
 翔太は話していて、スタッフのトラブル処理スキルが無いことは、コミュニティホール作りの障害になるという思いが強くなった。

「吉村主任、接客マニュアルは一区切りつきそうなので、ちょっと頼みたいんだが」
 翔太はそう言って、現在のスタッフから依頼のあるトラブルの種類と量を出すように指示した。
 誰がいつ、どんなトラブルで呼んだ、呼ばれた。 そしてその処理にどれくらい時間がかかったか、それをとりあえず1週間調べて、集計し、 件数の多いものから順に並べて、ABC分析をすることを要求した 同時にそれと並行して、スタッフ全員の『能力一覧表』を作るように言った。

 能力分類の内訳は大滝店と同じにし、①おもてなしマインド、②接客基本スキル、③店舗接客ルールの習得、 ④お客様遊技サポート力、⑤遊技機トラブル対応力、⑥設備トラブル対応力、⑦クレーム対応力、 ⑧カウンター対応力の8項目について5段階で評価を行うことにした。
 対象は役職者も含め、全員。なお、①については、翔太自ら評価することにした。 ②の基本接客スキルと③の店舗接客ルールの習得は、報告からすれば、全員評価4以上なので問題はない。
 したがって、④~⑧について実態を明らかにし、実際のトラブルの発生具合を加味して、スタッフの強化をすれば、 役職者に余裕が生まれ、もう少し役職者に仕事を渡すことが出来る。 と翔太は、胸算用を立てていた。

「それでは西谷主任、報告をお願いします」
 西谷主任はまず、クリンリネスの報告をした。 報告の中で、クリンリネス自体の状況に加えて、 最近、通行している人や近所の人から、掃除中に声を掛けられるスタッフが多くなっているという。
「毎日、一定時間に掃除に行くので、何回も同じ人と接触するみたいです。 スタッフたちも自然な形で近所の人と会話ができ、声を掛けられるが嬉しいみたいです」
 スタッフの中にはもう少し、掃除の範囲を広げたいという話も出ているので、 試験的に一部広げて、バラツキのでない掃除のやり方、所要時間を測定しているという状況を、西谷主任は報告した。
 翔太は話を聞きながら、クリンリネスが予定通りコミュニティホールの布石として機能し始めたことが嬉しかった。


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