本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

 ◇◇◇ 遊技台アンケートの検証

 翔太が警察から帰ってくると、尾田主任がデスクのパソコンを見ながら待っていた。
「おはようさん」
「おはようございます。店長」
 翔太はデスクにカバンを置くと、ミーティングテーブルに移動した。 ちょうどデスクに戻ってきていた森川副店長にも声を掛けた。 尾田主任は資料を持って移動してきた。

「それでは始めましょうか。尾田主任は、アンケート結果を踏まえて、どの台を購入するのが妥当だと考えている?」
「そうですね。お手元の資料になるように、私は一番打ち続けてみたいという集計結果が出ている準新台のA機種とB機種は購入すべきだと思います。
 そして、準新台のC機種とD機種からG機種もまあまあ人数ですね。 この中で台数の少ないD機種とE機種。後の機種はチェックをした人は3人以下のですから、どれでも同じかもしれません。 この稼働の良い新台H機種などはいいかもしれません。全国データでも新台Hの台稼働は高いですよ」
 そう言って尾田主任は、購入候補に対する意見を述べた。
「今回、思った以上のアンケートが回収できたから、判断しやすいね」と森川副店長は資料を見ながら、頷きなずいた。

 資料に一通り目を通した翔太は尋ねた。
「尾田主任、台購入の判断基準は何?」
 尾田主任はいったい何を訊かれているのだろう、というような顔をした。
「それは、アンケートで集計した、打ちたいという台の支持の多さではないんですか?」
「アンケートで支持が多いとなった台は、本当にお客様が継続して打ってくれるの?」
 翔太の重ねての問いかけに、尾田主任は少し混迷している。森川副店長も同様だった。
「そ、そうだと思いますけど・・・」
 尾田主任の答えを聞きながら、北条真由美がいたら、散々嫌味を言われるだろうと思った。

・・・・・・◇・・・・・・
 思っただけでなく、翔太の頭の中には、真由美の声が聞こえてくる。
『関根主任って、物事のうわべしか見ない、おめでたい人なんですね。
 お客様が打ち続けたいと言ったら、本当に打ち続けると思っていらっしゃるのかしら?』
『・・・・・・』
『それだったら、お客様にアンケートをしていれば、商売は永遠に繁盛するということですよね。 そんなホールってあるのかしら?私は寡聞にして知らないけれど』
『・・・・・・』
『第一、遊技中にいきなり「この中で好きな機種は?」って聞かれて、 将来にわたって打ち続けるであろう台を、冷静に判断できる人って、どれくらいいると思っていらっしゃるのかしら?     
 認識が砂糖に蜂蜜をかけたくらい甘いと思うんですけど』
 まあ、こんな感じか、と翔太は頭の中で苦笑した。
・・・・・・◇・・・・・・

「尾田主任、お客様の機種要望とは別に、お客様の行動を検証して、その要望が本当なのかを確認する必要がある。 いきなりアンケートを訊かれて、自分の好みを正確に把握して、言えるかというのは怪しいと思わないか?」
「そう言われると、一理あります。でも、お客様は嘘を言っていると?」
「そこまでは言っていない。ただ、正しい選択を必ずしもしていない問うことさ。 遊技台アンケートの役割は2つあり、一つは、お客様の声を聴いて、お客様よりの運営をしていますよというパフォーマス。 それは今回尾田主任が頑張ってうまくやれていると思っている。 アンケート後のすぐの集計発表などは、お客様から見れば、このホールは誠実に対応しているように見える」
「ありがとうございます」

「もう一つは、お客様に対する機種揃えの安心の提供。 お客様、特に地元の機種客が好む台ははずなさい、打ち続けてくれる台は増やす、無ければ購入するというものだ」
「『コミュニティ基本講座』の必要条件の1項目の‘安心’の徹底ですよね」
「そういうこと、それをするためには、アンケートを鵜呑みにするのではなくて、アンケート上位機種の魅力が、本当にあるか検証して導入しないといけない」
 尾田主任は頷いた。森川副店長の神妙に聞いている。

「検証視点は、大きく分けると2つ。 一つは台の魅力度。 指標としてはどれくらい長く遊技をするかという『会員アウト』と言われるもの。 二つ目は、お客様の利用状況。お客様の直近3か月の遊技人数と直近1か月の遊技人数、その中の機種客の有無」
 翔太は近くにあったコピー用紙の裏紙に、ざっくりした図を書いて説明した。
「尾田主任。機種客の調べ方は知ってるよね」
「来店回数と台の利用回数で調べます。 来店のたびに利用している人は、その機種のファンとみなすというものですよね。」

 尾田主任はアンケート集計表を改めて見た。
「店長、質問です。アンケートの中に自店に無い台があるんですけど」
「大丈夫さ、このホールは遊技台の全国データが見られるようになっているだろう。 そこの『会員アウト』などのデータを参考にすれば分かる。 それと近隣店舗に入っているなら、手間はかかるが、その店に行って、その台の利用状況を確認することかな。 中古台なのに利用している人が多ければ、機種客がついている可能性は高いと推察できる」
「わかりました。ありがとうございます」

「他、何かありますか?大丈夫ですね」
 翔太は尾田主任と森川副店長の顔を見た。
「検証は、アンケートの上位から調べていき、機種の魅力があり、お客様がついていれば、稼働状況を見て、増台を判断できますよね。 反対にアンケートの上位であるにも関わらず、台の魅力がない。遊技人数が少ない。 繰り返し利用する人がいないとなれば、人気はすぐに下がるでしょうから、放置しておけば良いでしょう。 おそらく次回の遊技台アンケートには出てこない可能性が高いでしょう」

 翔太は一通り判断の視点を説明すると、尾田主任にデータを調べて整理するように指示した。 そして自分なりにどうすべきかを判断するように求めた。 横で聞いている森川副店長に対しては、尾田主任からデータを受けとり、自分なりに判断をするように指示した。

「競合店より規模が劣る場合、機種揃えは非常に大切です。 機械購入の選定力は、新台の魅力が衰えてくると非常に重要になります。 新台で集客しにくくなるからです。 前にも行ったように、打ちたい台がないとどんなに関係づくりをしても、ホールに来てくれません。 だから、こういう努力が大切なのです。
 地元客に対して、だいたいの品揃えでよしとするホールと、 100%の品揃えを目指すホールでは、微差かかもしれませんが、それが大きな差になると思っています。
 ちょうどコシヒカリのようなものです。 他コメとの差は微差なので、実際に食べて味を見分ける人は少ないけど、大きな値段の違いを生む。 これと似ていると思っています。 二人とも、よろしくお願いしますね」
 翔太はそう言って自分のデスクに戻った。

 ◇◇◇ 感謝カードの推進

 翔太は事務所のミーティングテーブルで、尾田主任の報告を受けていた。
「店長、とりあえずまとめました」
 感謝カードは慣れるまで訓練ということで、一人が毎月全員に対して、感謝カードを渡す。 渡し方は、役職者も含め全スタッフを3グループに分けて、10日単位で1グループに対して感謝カードを一枚以上渡す。 そうすると1か月で、全員に渡すことが出来るというモノであった。

 そして、各人が管理しているノートは、各グループのシートチェック係に、毎日書いた枚数と受け取った枚数を報告し、ノートに確認印をもらう。 スタッフは役職者にノートを10日毎に見せる。見せる役職者はランダムに抽選にする。役職者は店長に同じように見せる。 見せることで会話のきっかけや部下の情報が手に入るというものだった。

「よし、それで運用を6月から開始してくれ、5月に書いたものは、取り敢えず私は目を通しておくが、尾田主任はどうする?」
「わかりました。最初ですので、私も目を通します」
 翔太は、10日ほどで枚数も知れているにも関わらず、内容が同じようなことの繰り返しになっていないかチェックしようと考えていた。

「それと、提案があるんですが」
「何?」
「感謝カードを、ホールのお客様を観察して、書いてもらうのもいいんじゃないかと思ったんです。 お客様に対する観察力が上がって、気が付く接客ができると考えたんですが・・・」
 翔太の頭の中には、いずれ『感謝シール』を配布したいと考えていたので、その予行演習というアイデアに結び付いた。

「いいとは思うけど、いきなり感謝カードをお客様に渡すの?」
「そこまでは、考えていません。 お客様の善行や、店に対して協力的な行動をしていただいたお客様に対して、 メッセージ的にコミュニティ掲示板に貼ると面白いと考えたんですが」
 翔太は目をつむって考えた。 店側として、感謝している気持ちを、お客様に伝えることが出来る。 具体的なものが出てくるのであれば、悪くはないと思った。
「わかりました。とりあえずどんなものになるか、それも書いてもらいましょう。 もし、内容を見てお客様に感謝の思いが伝わるものであれば、尾田主任が言ったように、 コミュニティ掲示板か何かで、オープンにするようにしましょう」

 尾田主任は、指示にプラスアルファを加えて持ってくる。 大滝店と同じではなく、それ以上のことを考えている翔太にとっては、有難い存在である。
 翔太は、尾田主任が出してきた案で『感謝カード』を進めることにした。

        ☜ 前回             次回 ☞

inserted by FC2 system