本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇会員が獲得できない理由はとは
          (6月2週 リーダーミーティング)

 翔太は、現場を主任に頼み、会議室にリーダーを全員集めた。 翔太の横には浅沼店の宝田主任が座っている。
「今日のミーティングのテーマは、“会員の強化”のためです。 リーダーの皆さんは、実際に会員募集のために、スタッフの休憩時間調整や募集タイミングの指示を出している現場の指揮官です。 これまで会員募集をしてきて、問題と感じたことを話してください」
 翔太はリーダー達に発言を促した。

 最初は戸惑っていたが、岡田リーダーがしゃべり始めた。 会員が取れる日もあれば、取れない日もあること。 スタッフで会員募集のやり方にバラつきがあること。 会員獲得ができるスタッフもいれば、不得手なスタッフもいること。 それぞれが話し始めた。

 一通り聞き終わって翔太は尋ねた。
「皆さんは、取れたか取れなかった、その原因をスタッフの能力によるものと考えているようですね。 それでは会員獲得における皆さんの役割はなんでしょうか?」
 沈黙が流れた。
「みんなは、自分の役割をどう思っているかで、問題の在り方が違ってくるのが、理解できているだろうか?」
 翔太は3人の顔を見まわした。横で宝田主任がメモを取っている。

「例えば、会員募集の合図をするのが自分の役割と考えれば、ホールの状態を見て、〇〇さん会員募集をしてくださいと言えば仕事が完了です。
 もし、自分がホールを担当しているときに一人以上会員を取らせることだと考えれば、一人も取れないことが問題となります。いいですね」
 翔太がリーダー達を見ると神妙に頷いた。

「それから、会員が獲得できない原因ですが、スタッフの会員獲得能力がないからと考えれば、原因はもちろんスタッフになります。 そうですよね」
 岡田リーダーが頷いた。
「もし、スタッフの会員獲得の力を上げるのがリーダーの仕事となれば、 何度も会員募集をさせながら、全然取れないスタッフがいるのは誰が悪いのですか?」
「もちろん、リーダーの責任となります」
 明日葉が答えた。
「そうですね。それでは今日からスタッフが会員募集で成果を上げる責任を、リーダーが負うこととします。よろしいですか」

 すると横井リーダーが質問してきた。
「リーダーに能力がないのは、誰の責任なんでしょうか?」
「それは、店長の責任に決まっているだろう」と翔太は言った。
 横井リーダーがニヤッと笑った。 翔太もニヤッと笑った。
「だから、能力の無い人間をリーダーにしているということなので、 任命責任を取って即刻能力の無いリーダーを降格するというのはどうかな?横井リーダー?」
「賛成です。即刻横井リーダーを降格してください」
と明日葉が手を上げた。みんなが笑った。

 翔太は時計を見て、少し速度を上げようと思った。予定より時間がかかっている。
「冗談はさておき、現場責任者であるリーダーは、スタッフの入会活動を成功に導く責任がある、というのは本当だ」
 そう言って翔太は説明をつづけた。
「まず、みんなに知ってもらいたいことは、成果というものは、何かの作業をして、アウトプットとして導き出されるということだ。 会員獲得も同じ。入会活動という作業のアウトプットとして、会員獲得がある」
 翔太はホワイトボードに『入会活動』と書き、アウトプットとして『会員獲得数』と書いた。
「現在のホールのお客様の会員率がそれほど多くないことは、この間のアンケート調査で実証されている。 だから、入会活動をして対象者が一人もいないということはない。ここまで問題はないね」
「ハイ」

「でも、実際に会員活動して取れないこともある。 会員獲得にバラツキがあるということは、要するに入会活動という作業にバラツキがあるということになる。 みんなの目の前に最近記録してもらったスタッフ別獲得シートがある。これだ」
 翔太は、『入会活動』の下に『バラツキ』と書き、シートをみんなの前に提示した。

「ほら、会員を取れている人は取れている」
「本当ですね。会員募集にかけている時間が違うからですか?」
「時間も書いてあるだろう。時間と獲得件数は比例しない」
「それじゃ、アプローチしている人数ですか?」
「それもあまり関係ない。アプローチが多いけど獲得人数が極端に少ないスタッフがいるだろう」
「やっぱり入会活動の内容自体に、相当なバラツキがあるということでしょうか?」
 岡田リーダーが翔太に尋ねた。
「そうだね。同じ時間、同じ件数を回っても、獲得人数は大きな差が出る。これは作業内容が違うからだ」
「僕は、てっきり運が悪いから、とれないと思っていました」
 横井リーダーは感心したようにシートを見た。

「ホールを回っていれば、運よく会員になりたいお客様に出会えば取れる、出会えなければダメという発想だね。 でも、それは間違っている。 何人ものお客様にアプローチするときは、不思議とある一定の確率で取れる。 大数の法則と言われるものだ」
「大数ですか?」
「そう、サイコロを少しだけ投げても1~6は均一に出ない。 ところが数多く投げるとだいたいどの数字もだいたい同じ確率で出ていることが分かる。 それと同じなんだ」
「店長が言いたいのは、作業内容で取れる確率が決まるということですよね」
「そういうこと、だから会員を獲得できないスタッフの作業内容を変えない限り、高い成果は期待できないということに気づいて欲しいということだ」
「分かりました」
 3人とも頷いた。

◇◇◇会員獲得を改善する考え方とは

 「ではどうやって改善するかだが、悪いところが分からなければ、直すことはできない。 だから取れないスタッフに対して、何が悪いのか指摘できないといけない」
「具体的にどうするんですか?」
 明日葉が訊いてきた。
「必要なのは問題を特定することなので、まずやっている作業を分解することだ。 つまり、スタッフがやっている入会活動を分解する。 プロセスで分解するのが、分かり易いだろう」
「プロセスですか」
 岡田リーダーが興味深そうに復唱した。
「まず、お客様を見て、会員かどうかを判断する。次に声を掛けるタイミングを見る。 そして、入会アプローチ。会員のメリットの説明。 クロージング。入会用紙に記入。カードの使い方説明。お礼といったプロセスで進む」
 翔太がホワイトボードに書くと、リーダー達はメモをとり始めた。

「みんなの見ているスタッフ別獲得シートは最近のものだ。 それを見るとアルバイトの立花さんは、毎回会員をとっていることが分かる。それに近いのが東田くん。二人は成功モデルと言えるだろう。 反対に全然取れないのが坂下さんや北原くんをはじめとする4人。
 できる人間の成功ポイントを把握して、できないスタッフに移植すればどうなる?」
「できない人間ができるようになります」
 横井リーダーが当然というように言った。
「そのためにやるべきことは?」
「まず、できないスタッフが、このプロセスの中で、どこをミスしているのか見つけることです。 つまり、問題の特定です。そして、その部分の改善することです。 改善方法は、成功モデルの2人のやり方を移植するということですよね」
と明日葉は嬉しそうに言った。

「そういうこと、一律の指導は最初に基本を教える時はいいが、実際に活動し始めるとあまり役に立たない。 個人によって得手不得手があり、プロセスのどこで行き詰るのかは、バラバラだからね。 アドバイスは、その行き詰まっているプロセスについてのみ必要だ」
「ということは、スタッフの改善点を知らずにアドバイスをしても、意味がないということですよね」
 岡田リーダーは翔太の顔を見た。

「分かってきたね、岡田リーダー。そういうことなんだ。 ここからが君たちが監督している意味と思って欲しい。 会員獲得ができない人間は、自分の問題に気づいてない。だから良くならない。 そこで、現場でそういう人を見て、ポイントを押さえた個別指導が必要になる」
「その個別指導をするのが、私たちリーダーということですね」
「寺島リーダー、その通りだ。ここまでいいね」
 翔太はリーダーを見回し、頷くのを確認した。

「例えば、坂下さんは、まず、会員かどうかの見極めからつまずいている。 とりあえず声を掛ければよいと思っている。頑張っているが無駄に時間を使っている。 そして次のアプローチのタイミングも悪い。そこでほとんど全滅している」
 翔太はスタッフ獲得シートを指さした。


「坂下さんには、会員さんには闇雲に声を掛けないように言ってるんですが、・・・」
 岡田リーダーは、何故そんなことをまだやっているの、というような口ぶりで話した。
「岡田リーダー、抽象的なアドバイスはあまり役に立たない。 それが役に立つのは、相手が抽象的なアドバイスを受けて、具体的なものに落とし込める力がある場合だけなんだ」
「抽象的?」
 岡田リーダーは翔太の顔を見た。
「そう、『闇雲に会員さんに声を掛けるな』というアドバイスをしても、坂下さんが会員を見分ける方法を知らなければ、意味がないだろう」
 岡田リーダーはゆっくりと視線をまたスタッフ獲得シートに戻した。
「そうですね。具体的にサンドの液晶のこの部分を見るとわかるとか、極論すれば『会員のお客様の顔は覚えること』と言った方が、良かったのかもしれません」
 岡田リーダーは自分のアドバイスが不十分であったことを認めた。翔太は頷き、話を続けた。

「それはアプローチタイミングでも同じこと。
『お客様がこちらの話を聞いてもらえそうなタイミングに声を掛けろ』と言われて、アドバイスになる?」
「全然ダメですね」横井リーダーが言った。
「そうだね。それから声の掛け方でも反応が変わるから、どんな声の掛け方をしているのかも重要だ。 そういうものを君たちがアドバイスをしなければならない」
 翔太が目で同意を求めると3人が頷いた。

「私の言いたいことは、みんなには分かったと思う。 それでは、スタッフ指導のための今後の手順を言ってくれ」
「まず、2人の成功モデルをプロセスに基づいて、成功のポイントを見つけること。 次に指導すべきスタッフをプロセスに基づき、ネックとなっている部分を発見すること。 そして、ネックに部分に成功モデルの成功ポイントを移植することです。 その時、スタッフが実行できる具体的なレベルまで落とし込みことです」
「岡田リーダー、Goodです。ですが、それで十分ですか?」
「具体的レベルに落とし込んでも、出来るかどうかは訓練が必要じゃないでしょうか。 分かっているけどできないことは、多々あると思いますけど」
「寺島リーダー、いいところに気がついたね。 人は頭で考えながら、同時に行動することはほとんどできない。 だから考えなくても行動が自動的に流れるレベルじゃないと、実際には使えないよ」
「ということは、ロールプレイングなどをして、体で覚えてもらうということですね」
「そういうことです」
 翔太の話を忘れないように3人はメモと取った。

        ☜ 前回             次回 ☞

inserted by FC2 system