本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 進捗会議(6月第4週目)

 最近、梅雨の雨がひどくなっている。大雨洪水警報が、連続して出されている。 雨が降るとこの地域は客足が落ちてくる。 夕方の5時前だというのに結構な暗さになっている。遠くの方で雷が聞こえる。 翔太はホールの東側用水路が気になって、見に行っていた。流れてきた木の枝やゴミが引っ掛かり、今にもあふれそうだった。 もしあふれるようなことになれば、駐車場の東側が水浸しになってしまう。 さらに道路に沿って東に行くと、あふれだした水と一緒にゴミが流され、散乱していた。

 翔太は事務所に戻って、インカムで、万一にために東側の用水路近くに止めているお客様を呼び出して、今のうちに移動してもらうように指示をした。 それを受けて岡田リーダーがスタッフに傘とタオルを持たせて風除室に待機させ、自らも風除室でお客様に状況を説明するのをモニターで確認した。 翔太はお客様に気遣いをする岡田リーダーの行動を見て、うれしく思った。

「それでは、森川副店長、始めましょうか」
 そう言って、翔太はモニターの前からミーティングテーブルへ移動した。 主任も次々に席に座り、森川副店長が一番遅い着座となった。
「今日は、浅沼店からの参加はありません。雨が酷く、東側の用水路が気になります。 進捗報告をさっさとやってしまいましょう。それでは、西谷主任お願いします」
 西村主任は、クリンリネスに関しては、現状で特に報告することはないが、今の雨が上がった時点で、ホール周辺にゴミの散乱が予想される。 ついては、朝の掃除に人手を多め使いたいという要望を出してきた。 さっきホール周辺を見回り、状況を知っている翔太は二つ返事でOKを出した。
 そして、前回翔太が頼んでおいた十分条件の③番目の努力についての報告のための情報収集については、 クリンリネスと遊技勉強会、遊技台アンケートについて写真撮影とヒアリングや情報整理をしていると報告した。

 続いて尾田主任が報告行った。内容は、『感謝カード』の進行状況と2回目になる遊技台アンケートの段取りの報告を行った。 そして、遊技機の勉強をするための10分間勉強会についてであった。 テキストについては、大滝店で作ったものをとりあえず流用すること。 スタッフの時間がとれないので、2~3人ずつ行うこと。 講師は尾田主任自身とリーダーを中心とし、場合によっては西谷主任にも協力してもらうことなどを説明した。
「了解しました。先週やった遊技機の基本知識の勉強会は、スタッフがためになったと言ってましたよ。 業界人しか知らない知識を教えられると、ただのアルバイトから業界人という意識ができるようですね。 準備もたいへんでしたでしょう。ご苦労様でした」
「ありがとうございます」

「他に何かありますか?」
「実は考えていることがあるんですが・・・」
 尾田主任はコミュニティホールの十分条件の②番目のスタッフの名前を覚えてもらうために、 社内で写真コンテストをやりたいと提案をA4の紙にまとめてきていた。
 現在、名札を大きくはしたが、それだけではすぐに風景になってしまう。 そうしないためには、社員の写真コンテストをやり、社員がとってきた写真に簡単なコメントと名前を付けて壁に貼り出し、投票をしてもらう。 そうすることで、お客様のスタッフに対する興味がわき、注意を喚起かんきできると提案してきた。

「コンテストの写真の横にスタッフの顔写真は貼らないのですか?」
「はい、あえて貼らない方が良いと考えました。お客様は、スタッフの顔は分かるが、名前が分からない人も多いと思います。 写真がないと、自分の投票したスタッフは誰だろうかと名札を見るようになると思います。 そうするとこの前作り直した大きい名札が生きてくると考えました」
「了解しました。それでいきましょう」
 さらに尾田主任は、写真の対象物をこの地域の風景ということにすれば、 コミュニティホールの十分条件の⑨番目の地域に対する情報発信につながり、一石二鳥と言ってきた。

 7月はこの地域最大のお祭りもあり、翔太は面白いと思った。 7月の第4週にコンテストの発表を行い、投票してもらうという段取りで進めるように翔太は尾田主任に指示をした。
「尾田主任の提案は面白いですね。名札を大きくしたことにとどまらず、それに自然と注意を集める方法まで考えるとは、素晴らしい」
 そう言って翔太は尾田主任を褒めた。 この企画を7月20日に告知する改装リニューアルに絡めて、お客様を盛り上げる演出に使うことを翔太は考えていた。

 3番目に吉村主任が報告をした。挨拶運動は一定の効果を上げ、朝一番のお客様とは、かなり親しくなってきたこと。 挨拶時間を20分から30分と徐々に伸ばしたことで、お客様が無理なく覚えることができたと報告をした。 そして、7月の店休日に行う普通救命講座の案内を、今日からしていることを報告した。
「吉村主任。午前中のお客様の雰囲気がだいぶ変わってきましたね」
「はい、スタッフとの会話が明らかに多くなりました。今月になって会員になっていただいたお客様も20人ぐらいおられます」
「良かったですね。リーダーからも報告を受けています」
「知り合いになり、会員を勧められるというパターンが、やはり良いみたいです」
「やはりそうですか。ご苦労さまでした。他にありますか?」

「はい、私も提案があるのですが。そろそろ大滝店でもやっている『感謝シール』をこの店でも作ったらと思うのですが・・・」
 吉村主任は、今後いろいろな企画や活動をしていく中で、お客様に対して感謝を印として残していく場面が増えるので、 コミュニティの十分条件④番目(感謝)の強化の一環として、『感謝シール』を作りたいと言ってきた。
 翔太としては、8月に計画しているリニューアルの前企画として、『感謝キャンペーン』を考えていたので、渡りに船と思った。 こういう部下はありがたい。

「わかりました。『感謝シール』を作りましょう。尾田主任が推進している『感謝カード』で、感謝を見つける習慣が身についてきていると思います。 社外に対しては、一定レベル以上の時に渡さないと、お客様の中には、シールがもらえなかったと不満に思う人がでるかもしれません。 その辺のルールを明確にして配布するようにしください」
「了解しました」吉村主任は返事をした。
 翔太は、吉村主任に『感謝シール』の活用について、ルールをこしらえ、大枠ができ次第見せに来るように言った。

「あの、もう一つ・・・」
 そう言って吉村主任は、7月に行われる地元の最大のお祭りの話をした。 スタッフの中にお祭りの実行委員をしているお父さんがいる。 準備をし始めているが、毎年かなりの手間をかけて準備をしている。 これを取材してコミュニティ掲示板に掲載けいさいすると、面白いと思うので、許可して欲しいというものであった。
「わかりました。今週はパン屋さんの取材に行くと言ってましたが、時間は大丈夫ですか?」
「問題ありません」
「森川副店長、これも吉村主任に同行してください。取材要領を覚えるのは、数をこなすのが一番なのでお願いします」
と言って、翔太は森川副店長を見た。
「わかりました。吉村主任、後で時間と取材内容の打合せをしましょう」
「副店長、ありがとうございます。私の方からは以上です」
 この後、翔太は会員入会の現状を報告し、リーダーたちの入会に対する取り組み状況を説明した。 予定よりは遅れているが、目標の120人はぎりぎり達成するだろうという予測を述べた。 そして、来月から行う会員カードの切り替えの準備状況を説明し、ミーティングを終了した。

 

◇◇◇ 大雨の翌日の清掃活動

 翌日、朝からよく晴れていた。
 西谷主任は早めにホールに出社し、駐車場の周りを調べていた。用水路の水量は依然として多い。 その用水路の周りにゴミが散乱している。一部駐車場にも入り込んでいる。

 西谷主任が見回った頃に岡田リーダーも出社してきた。
「西谷主任、おはようございます」
「おはよう」
「周囲のようすはどうした?」
「予想通り、ゴミが散在しているよ」
「先行して、掃除をし始めましょうか?」
「そうしよう。明日葉リーダーの早番だから、もうすぐ来ると思う。東側の用水路は先行して掃除をするとメールをしておいてくれ」
「わかりました。私も事務所によって、すぐにお手伝いします」
「ありがとう、そうしてくれると助かる」
 岡田リーダーは急いで事務所に行き、西谷主任はすぐにゴミ掃除を始めた。 まもなく岡田リーダーは西谷主任に合流し、アルバイトスタッフも合流し始めた。

「ご苦労様」
 西谷主任が振り向くと軽トラから声を掛ける農家の方の姿があった。
「朝早くから大変だね。用水路から流れ出たゴミを掃除してくれると助かるよ」
「いえ、とんでもないです。いつもご近所の方にはお世話になっていますから」
「いつも、掃除してくれているのは知っているよ」
 そう言って、ニコッと笑いながら、軽トラはゆっくりとメイン道路に出ていった。 西谷主任はうれしくなり、作業速度をあげた。

 しばらくするとまた軽トラが止まり、声を掛けられた。 振り向くといつもホールに来ていただいている山根さんだった。
「店長、評判がいいよ」
「店長じゃないです。主任ですよ」
「そうか、最近、掃除の範囲を増やしているだろう。見てるよ店長」
「主任ですって。ところで田んぼは大丈夫でしたか?」
「なんともない。大丈夫さ。またホールに遊びにいくから」
 そういうと山根さんはメイン道路へと出ていった。

 西谷主任は掃除を終えて、スタッフを集めた。
 掃除中に声を掛けられた話をすると、他のスタッフも声を掛けられたと報告をしてきた。 特に大雨の後なので、気にしている人が多いのかもしれない。 西谷主任は報告を受けながら、スタッフの嬉しそうな顔をみて、世間の人は見てないようで、案外見ているものだと感心した。 そして、掃除活動は自分に合っていると改めて思った。

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