本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 社内コンテストと花

「ところで 社内地域写真コンテストは進んでいる?」
「現在、写真データを持ってきたスタッフが7人、その中でコメント書いてきてるのが4人というところです」
「締め切りは来週の木曜日だよね。急がせるための工夫をしてる?」
「今週の木曜日に、写真とコメント提出状況一覧表を模造紙で作って、事務所に張り出す予定です。店長に率先して出していただけると助かります。 今、役職者で出しているのは、森川副店長と私のふたりだけです」

 翔太は忙しさに気を取られて、自分が出してないことに気づいた。率先垂範を日頃から言っている自分がこれではダメだと思った。
「分かった。今度の休みに写真を撮りに行く予定だから、すぐに出すよ。俺からも、みんなに声をかけておくよ」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」
 尾田主任はちょこんと頭を下げた。

「それから、もう一つあるんですけど、よろしいですか?」
「何でしょう?」
「コンテストのリスクヘッジでもないんですが、感謝キャンペーンの打ち出しもかねて、風除室に花を飾ったらと思うのですが・・・」 
「花ですか」
 翔太は一瞬何のことかと思考が停まった。
「感謝キャンペーンに合わせて、観葉植物を店内に置くようになりますが、風除室が逆に寂しくなるので、花を置けばと思ったのですが・・・。 もちろんそれだけではなく、スタッフを6グループに分けて、順番にスタッフに花を選ばせるようにします。
 選んだスタッフの写真をとり、名前と選んだ理由やメッセージを900×600ぐらいの小さなホワイトボードに書いて、 その花の横に置いたら、会話や、名前を覚えてもらうきっかけになると考えたのですが・・・」

 翔太はようやく意味が分かった。コンテストで名前を出す。花選びで名前を出す。 名前が頻繁に出てくるとそれだけお客様の目に名前が触れる。 要するに尾田主任は、単純接触の原理を生かしたコミュニティホールの十分条件の第2項目の強化を実践しようとしていることを、翔太は理解した。
 それなら、花を選んだスタッフに、『今日の花屋』などと書いた腕章や名札などの目立つサインを付けさせて、この花企画と連動させるのも悪くないと思った。

「小さなホワイトボードにね」
「1つ3000円ぐらいです」
「鉢置きはいらないんですか?」
「あれば助かります」
「分かりました。良いアイデアと思います。なんでも挑戦してみましょう。でも花の予算は3つの風除室で、合わせて月1万円以下としてください。 それから、この企画を現場のスタッフと連動できないか、一度考えてみてください」
 翔太は思いついたことを言ってしまいたかったが、止めにした。 言うとせっかく本人が自主的に考えることし始めたのに、その芽を摘むことになる。 まずは尾田主任に考えてもらおうと思った。
「分かりました。詳しいプランは、また出します」
 そう言って尾田主任が席に戻ろうとしたとき、森川副店長と吉村主任が帰ってきた。

 

◇◇◇ 豆の木パン工房の経過報告

「ただいま帰りました」
「ご苦労様」翔太は二人に声を掛けた。
「豆の木パン工房の江崎オーナーはどうでした?」
 吉村主任と森川副店長は、今度ホールで紹介する豆の木パン工房のポスターの内容や、配布するミニチラシの確認をするために出かけていた。 これで3回目になる。1回目は挨拶とインタビュー、それと試食パンの購入。 2回目は試食の結果報告とポスターを書くためのネタ探しインタビュー。
 その中でオーナーの江崎さんは、新しいパンの研究をするのが好きで、毎週3種類の新作を作って、定番商品になるパンの開発を続けていると語った。 ほとんどは失敗するが、それだけ努力をしているということが、他のパン屋との差別化になるということで、 それを全面的に打ち出したポスターを森川副店長と吉村主任が一緒に作っていた。 その原案がやっと完成したので、今日打合せに行ってきたのだ。

「江崎オーナー、凄く喜んでいました。自分の店でも貼りたいので、完成したら1枚分けて欲しいと言われました」
 森川副店長が上機嫌で答えた。
「それは良かった。私もポスターの原案を見ました。お店の説明文が面白く書けていますね。 こんなお店なら一度行ってみたいと思いましたよ」
「そうでしょう。今週の木曜日から掲示すると言ったら、楽しみにしていると言われてましたよ」
 森川副店長は自慢げに報告した。
 吉村主任を見ると、彼も笑顔で頷いた。
 森川副店長は、最初こんなことまで必要なのかと言っていたが、オーナーの喜ぶ顔を見て態度が一変した。 本当の地域の発展を応援するなら、その価値のあるお店を応援しないといけない、森川副店長がそう言いだしていると、翔太は吉村主任から事前に報告を受けていた。

「ところで、吉村主任。『感謝シール』が届いていたけど、配布するための準備はできている?」
「もちろんです。統一ルールは前にお見せした通りです。変更はしていません。 スタッフには説明済みです。まずは『感謝シール』をスタッフが配って、お客様がどう反応するのかを調べます。 それを踏まえて修正していこうと思っています」
 翔太は安心した。8月のリニューアルまで期間を、『感謝』というコンセプトでいろいろな企画をしている。 にもかかわらず、スタッフの感謝の演出ができてないとなると信用を無くしてしまう。  

「それと、西谷主任からラジオ体操の話を聞いたんだけど」
 翔太は吉村主任に尋ねた。
「それですね。朝市を開く場合、集客をどうするか、そのための告知をどうするか話していたんですが、 その時、朝、駐車場で近所の高齢者やお子さんを対象としたラジオ体操をすれば、と思ったんです。 ちょうど7月の20日を過ぎると学校は休みになりますから」
「ここまで来るかな」
「私もそれを心配していたんです。 この話をスタッフ休憩室でリーダーとスタッフに話していた時、アルバイトの喜多君が、朝、駐車場で『太極拳体操』をしたらどうかって言うんです」
「太極拳体操?」
「そうなんです。よく聞くと喜多君の家のとなりのアパートに中国人が住んでいて、駅前の英会話教室で中国語を教えているらしいんです。 その人が朝の運動にと、太極拳を近くの公園でやっていて、喜多君は習ったことがあるらしいんです」
「その人を先生にして、このホールで太極拳体操をしようと!?」
「そうです。北京や上海ですか、公園や広場なんかでやっている太極拳です。 店長からOKが出れば、喜多君が知り合いなので、彼と一緒に合いに行こうと思うのですが、どうでしょう?」

 翔太は悪くはないと思った。朝8時から9時までぐらいでやってもらえれば、面白いと思った。夏は日差しがきついが、 このホールは結構高さがあるので、9時ぐらいまでなら、ホールの西側にできる影で暑さはしのげる。
 ラジオ体操をしてから太極拳をするのも悪くはない。
「分かった。太極拳の件は吉村主任に任せる。喜多君を連れてすぐに交渉してくれ」
「了解です。その先生の送迎は喜多君がしてくれると思います。
 中国語講座は、昼からなので時間的には大丈夫と思います。
 それに喜多君の話によると、中国語講座の集客をするように、会社から言われているようなので、中国語講座の宣伝になるということでお願いすれば、多分無料でしてくれると思います」
 吉村主任は早速段取りをするということで、ホールにいる喜多君を呼び出し、打合せをするためにスタッフ休憩室に行った。

 翔太は、残った森川副店長から、豆の木パン工房についての細かな進捗状況をもう少し聞くことにした。 森川副店長は、パン工房の調理や工夫している場面をビデオで撮ってきたので、15分以内に編集し直し、テロップもつけ今週の終わりに流すこと。 また、明後日の夏祭りには参加して同じようにビデオ撮りを行い、また店内で流す予定などを報告した。
 現在流している“夏祭りの準備”についての取材ビデオについては、地元のお客様が結構見ており、スタッフもお客様との会話のネタにしているということであった。
 森川副店長が趣味を生かしてビデオ編集をしている。 翔太がその腕前を褒めると、森川副店長は、会話ができているのはリーダーの指示で、スタッフがお客様と話をする際に、“夏祭りの準備”のビデオについて積極的に触れているので、その効果とのことであった。
 いずれにしても、このホールがコミュニティ化に向けてうまく回り出し始めているように翔太は感じた。

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