◇◇◇ 好評だった総付け商品
翔太が事務所に行くと、森川副店長と吉村主任は準備作業を始めていた。
森川副店長は朝、7時前に豆の木パン工房に立ち寄り、問題が発生していないか状況を確認にして来ているらしい。
浅沼店からは、春日主任が見学に来ていた。
翔太は駐車場に出て、オープン前の様子を見ていた。
朝10時の開店前の行列はしれてはいるが、それでもいつもの倍はいる。
朝心配していた雨も大丈夫どころが、強い日差しがさしている。
駐車場からスタッフの乗った軽自動車が出ていった。
おそらく豆の木パン工房に向かっているのだろう。
翔太は、並んでいるお客様に挨拶をすると最後の確認のためホールに入った。 良い意味でスタッフに緊張感がある。 10時とともにドアが開いた。 お客様が次々とホールに入ってくる。 気のせいかいつもより元気にスタッフが大きな声で挨拶をしている。
一通りホールを回って、お客様と挨拶を交わし、事務所に戻った。 ホールコンで稼働状況を確認して、時計を見ると10時30分、モニターに目を移すと豆の木パン工房パンを載せた車が入ってきた。 入口前に車を停め、パンを運び入れる。 翔太は急いで再びホールに出た。
見るとちょうどパンのラップをとったところで、香ばしい香りがホール内に流れた。
パンの近くにいた人は、一斉にパンを載せた台車に目を向けた。
パン屋さんに化けたうちのスタッフが、楽しそうにカウンター横のワゴンサービスまでパンを運んだ。
アナウンスも流れている。
パン工房の作業服を着たうちのスタッフがパンを配り始めた。
森川副店長がパンを載せた盆を持って後ろで立っている。
パンを配りながら楽しそうに会話をしているのが、遠目からでも良くわかる。
好評だ。翔太は安心して事務所に戻った。
事務所に戻ると浅沼店の星野店長が来ていた。
「おはようございます」
「関根店長、見学に来ました。盛況ですね」
「お陰様で、みんなが頑張っているお陰です。春日主任からもアイデアをもらいました」
翔太がそう言うと、春日主任はニコリ笑った。
「稼働はどう?」星野店長が集客状況を訊いてきた。
「事前にスタッフの口コミで集客していますし、新台入替の余波もあり、昨日より稼働は高めになっていますね」
「改装を発表してからの稼働は上手くいってる?」
「落ち込みはないですね。カードの切り替えなどで、直前に関係づくりを再構築したので、
スタッフの表情が明るい限り、お客様が回収を心配して来なくなるということはないと思います。
現実に今日見てもお分かりのように逆に増えています」
星野店長は、モニター見ながら何度も頷いた。
パンを配り終えた森川副店長が事務所に戻ってくると、翔太に状況を嬉しそうに報告した。
星野店長はしばらくして帰ったが、春日主任は昼一の甘いパン配りがどうなるのか見たいということで、久米坂店に残った。
午後のパンも工夫しただけあって好評だった。
途中パンの数が足らなくいと、急遽豆の木パン工房に取りに行く場面もあったが、なんとかなった。
最後のパンの配布の時は、心配だったのかオーナーの江崎さんも来られて、配布を手伝い、カウンター横の臨時のパン置き場で、しばらくパンを配られていた。
森川副店長もその横でサポートしていた。
翔太は、オーナーの江崎さんに挨拶し、言葉を交わした。
江崎さんは終始笑顔で、森川副店長と吉村主任のお陰と二人を持ち上げていた。
江崎さんはホールでパンを配布しながら、手ごたえを感じたようだった。
閉店処理を済ませ、最終的にホールコンで稼働を確認すると、昨日の新台入替初日よりも稼働が10%上がっていた。
◇◇◇ 進捗会議(7月第4週)朝市と廃棄野菜問題
7月も第4週となり、来月の大型リニューアルまで一か月を切っている。
リニューアルまでに、お客様の心理状態をホールに好意的なものにするための施策を打ってはいるが、時間がもう少し欲しい。
8月が目の前に迫ってくると、焦りもあるのか翔太は時間が経つのが早いと感じてしまう。
一方、進捗会議は毎週続けていると定番業務となり、進捗報告も要領の良いものになってきている。
翔太は、主任たちの仕事に対する速度感が上がってきているように感じていた。
「それでは、進捗を確認していきます。それでは西谷主任お願いします」
翔太は早速ミーティングを始めた。
西谷主任は、クリンリネスの話、ホールの取り組みということで、普通救命講習会の受講風景と集合写真をコミュニティ掲示板に載せたこと、
それから講師から聞いたAEDの利用についてのメッセージも併せて掲載したことを告げた。
次に、農家の方との話で、朝市を8月の2日に試験的に実施することになったこと、
ラジオ体操をしている横に仮説テントをもう一つ建て、そこで行うことになったと伝えた。
「参加される農家の方は何件ですか?」
「とりあえず3件です。いつも挨拶をしている、山根さん、水田さん、それと本田さんです。
8月の2日に手ごたえがあれば、あと7,8件は声を掛ければ参加してくれると言ってました。」
「誰が買ってくれるか明確にしていますか?」
「一応メインターゲットと考えているのが、ラジオ体操のきてくれる人。朝のお客様。最悪うちのスタッフです」
「事前にどんな野菜が並ぶか分かりますか?」
「分かると思います」
「それじゃ、それをホールの食堂に伝えてください」
「それを使って何かお昼の料理を作ってもらいましょう。食堂の遠山さんに相談してみてください。
特別メニューが考えられるなら、地元農家とのコラボレーションで作った『感謝がテーマの創作料理』とか言って、感謝キャンペーンの関連商品にしましょう」
「了解です。会議後、相談してみます」
「日は無いですが、集客はどう考えていますか?」
「コミュニティ掲示板に、8月2日の朝市の掲示をします。
それと写真コンテストの横に、三人の方の畑を撮影してきたので、それを掲示します。
それとトイレにミニポスター、風除室にもポスターを貼ります」
「他には」
「午前客なので、挨拶運動をしているスタッフにチラシを7月30日から3日間配ってもらいます。
そしてカウンタースタッフにも午前中に限定して、朝市の案内をしてもらいます」
「当日の準備はどうなっていますか?」
「はい、7時半には来ていただいて、商品は並べる予定です。
机は倉庫にある折り畳みのテーブルを3台使用します。
現金の受け渡しはご本人にしてもらいます。
こちらとしては、ビニール袋と万一考えて、両替用のお金を段取りする必要があると考えています」
「なるほど、今後開催していくかどうかの判断基準を言ってください」
「・・・判断基準ですか?・・・正直そこまで考えていません」
「それでは、すぐに考えてください。
判断基準を設定し、その判断基準をクリアするための手を考えないと、朝市を開催することが目的となり、次につながりませんよ」
「わかりました」
「それから、アンケートはとるんですか?」
「それもまだ・・・」
「アンケートは取ってください。改善の役に立ちます。
例えば、品揃えはどうか。価格はどうなのか。お客様の視座で見ると、こんな朝市なら参加したという希望が見つかるかもしれません」
「了解しました」
「日が無いので、考えたら私に持ってきてください。
それと可能なら、朝市の確認をしたいということで、3人の家に行って、企画を相談してください」
「森川副店長」翔太は森川副店長に声を掛けた。
「なんでしょうか。農家の方に行くときに、オブザーバーとして、西谷主任をサポートしてもらえますか?」
「わかりました」
「その時、朝市とは別に『廃棄野菜』の問題について聞いてみてください」
「廃棄野菜問題ですか?」
「そうです。農家の方が野菜を作っているが、規格外で出荷できなかったり、数量不足で出荷できず、これを消化できずに捨ててしまうという問題です。
これは、農家の高齢化が進むとともに大きくなっています。
もし山崎さんやお知り合いが、本当に捨てているということでしたら、このホール機能を使って廃棄野菜を少しは減らすことが出来ると思います。
これも地域密着を生かすコミュニティホールの役割と考えています。
最終的にはここに着点をもって欲しいと考えています。
西谷主任、よろしくお願いします。
森川副店長もよろしくお願いします」
ここで翔太は少し休憩を入れた。