本当の地域密着店の作り方(実践編)

店舗(パチンコホール)が地域のコミュニティ広場としての取り組みを始めた

関根翔太のコミュニティホール指導回想録

『本当の地域密着店の作り方』の後継本となる予定の連載です。

◇◇◇ 進捗会議(8月第2週:健康体操の会、感謝シール)

 ◇

「それでは、報告を始めます」
 吉村主任は、『朝の健康体操の会』が、西谷主任の地域への声掛けや江崎さんの奥さんの口コミで広がってきたことを伝えた。 そのためにテントを二つ常設したこと。朝市をするためには、テントがさらにもう一ついることを訴えた。 そして、朝市については、事前に西谷主任と参加者に訊くと、多くの人が購入したいと言っていたので、成功する可能性が高いと予想を述べた。

「これまでやったことの相乗効果が出ているね」
「大滝店の時より、相乗効果が出ているように感じます」
「100匹目の猿かもしれないよ」
「100匹目の猿?」
「そう、昔、宮崎県の幸島の猿に、イモを洗って食べることを教えたら、遠く離れたところの猿もイモを洗って食べるようになったという有名な話さ」
「はじめて聞きます」
「諸説あるけど、目には見えないけど猿の集合意識があって、その情報が書き換えられたので、突然イモを洗って食べだしたとか言われている」
「ジャックも、大滝店で約40人、大安寺店で約45人、この店で38人、浅沼店も合わせると100人を超えている。 ジャックという会社の集合意識の情報が書き換えらえて、コミュニティ化が当たり前のこととして動き始めたのかもしれないよ」
 翔太は半分本気でそう思った。翔太は前から企業風土とはこんなものではないかと思っている。

「ありがとうございます。店長の冗談は横に置いて次に行きます」 と言って、吉村主任は接客5原則のチェック結果を報告した。
 事前告知もしてあり、大きくバツマークのつくスタッフはいなかった。 翔太は報告を受けて、接客5原則という基本の徹底のこだわる吉村主任の姿勢を賞賛した。
 感謝の演出については、8月3週に配る感謝文字が入ったマグカップが、今週の終わりに送られてくること。 8月の2週目からお客様に『感謝シール』を配布し始めたことを報告した。

「感謝シールの配布は順調?」
「やり始めたばかりなので、なんとも言えません。とりあえず、『協力していただいた』『良いことをしていただいた』と感じたときに渡すことにしています。 但し、マイナスをゼロにするものは、ナシとしています。 例えば、カード挿さなかった人にお願いしてカードを挿してくれたら、感謝シールを渡すというようなケースです。 やらないものが得をするのは、止めさせています」
「今、会員入会者に感謝シールを渡している?」
「ハイ。ブルーの感謝シールを渡しています」
「何種類作ったの?」
「5色です」

「感謝シール前に入会した人はそのままにしているの?」
「悩んだのですが、欲しいと言われれば、1枚ブルーの感謝シールを渡すようにしています」
「お客様向けに何か告知してる?」
「特には・・・」
「それじゃ、感謝シールの記念期間として、お客様全員に便利カードを持っているか聞いて、持っている人には感謝シールをお配りしたらどうですか?」
「全員に、ですか?」
「新特典じゃないけれど、お客様に声を掛ける正当な理由になるわけだし、会員の皆さんに改めてお礼と不都合や要望がないか聞くのも悪くないと思うよ」
「そうですね、わかりました。リーダーと相談して早速実行してみます」
 吉村主任は何かすっきりした表情を見せた。

「吉村主任、もとに戻るけれど、『朝の健康体操の会』は夏の間は良いけれど、これからどうするか方向性を出しておいて欲しいんだ。 尾田主任が先ほど、『写真同好会』の会則を作ってきた。これを参考に、夏だけの会にするのか、それとも一年を通しての会にするのか。 また、継続して参加している人に何か賞状でも送るとか、いろいろ考えられると思う。一度まとめて、持ってきてくれないか」
「わかりました。実は私も着地点を探していたところです。早めに作って相談に行きます」
 そう言って吉村主任は席に戻っていった。

「森川副店長は、今日はいないの?」
 これでミーティングを終了しようとする翔太に星野店長が質問をした。
「今、森川さんは、豆の木パン工房の江崎オーナーとお饅頭屋さんに行ってます」
「また、総付け商品?」
「どうなるかまだ分かりませんが、お饅頭屋さんの“おはぎ”があんまり美味しくないので、このままでは、お店が推奨する総付け商品にはできない、という話をしているはずです」
「ダメなものは、やっぱり断るんだね」
「そうですね。これを曖昧にすると、まずうちのスタッフの信用を失います。 日頃スタッフに嘘の無い接客をしろ、店舗の方針に自信をもって接客しろ、と言っていることが嘘になりますから」
「私もその考えは正解だと思うよ。スタッフが自分のお店を信じなくなると、関係づくりはできないからね」
 翔太と星野店長は、それからしばらくコミュニティのプロジェクトの進め方について意見交換をし、分かれた。

◇◇◇ 山口饅頭堂への結果報告

 森川副店長は豆の木パン工房にいた。 江崎オーナーと山口饅頭堂の試食の結果報告をしていた。
「これは酷いね。9割の人がおススメできないとなっているか・・・」
「残念ながらこの結果では、おススメ商品として総付け商品にすることはできません」
「それは当然だね」
 江崎オーナーも山口饅頭堂の味には疑問があったようで、総付け商品にできないのは仕方がないということになった。
「おそらく山口社長も味の改良の必要性は気づいているが、ここまでとは思っていないんじゃないかな。 それから味の改良については、リスクがあるが、何と言っても先代からの職人との反発を気にして、何も言えないんじゃないかな」
「そうなんですか」
「彼は職人では無いので、職人が辞められたら店が立ち行かなると恐れている。 だから問題を先送りしている。ここら辺で腹をくくらないと本当にダメになってしまう」
 そこで森川副店長が、これを機会に味の改良に取り組むことを提案したいと言ったところ、 大賛成ということになり、二人で説得に山口饅頭堂に行くことになった。

 二人は山口社長に会うとまずアンケート結果を説明し、この結果ではおススメ商品として総付け商品として取り扱うことはできないことを報告した。
 山口社長は、アンケート結果を見て沈黙した。
「山口社長、この山口饅頭堂を本当に繁盛店にしたいのか?」
 あまりに黙り続けている山口社長に業を煮やし、江崎オーナーが質問をした。
「当然だろ」山口社長は反発した。
「本当に繁盛店にしたいのなら、問題に正面から向き合わないとダメじゃないのか。 山口饅頭堂の味は、昔は良かったかもしれない。 でも食文化が変化し、嗜好が変わったんだと思う。どんな理屈をつけても、事実は無しにできない。私はそう思う」
「・・・」
「問題はここに明らかになっているじゃないか。なぜ取り組まないんだ?」
「それは分かっている。でも事情がいろいろあって取り組めないんだ」
「山口さん、あなたは経営者だろう。ビジネスはやるかやらないかだ。 どこのお店でも制約条件はある。それに従っていたら改革は絶対できない。出来るのならもうやっているだろう。 経営環境は昔と変わって来てるんだ。それに合わせて変わらないと淘汰されてしまうよ。 二代目として腹をくくる時期が来たんじゃないかな?」
「・・・」
 森川副店長は、二人のやり取りを聞きながら、業種業態が違っても、経営の本質は変わらない。変化に対して適応していかなければダメになる。他人事ではないな、と考えていた。
「自分で変えない限り変わらないよ。この森川さんが、面白い資料を持ってきてくれた。山口さんは知っているかもしれないが・・・」
 そう言って森川副店長に“おはぎ”を驚異的に販売している仙台のスーパーの資料を渡すように促した。 森川副店長は、持ってきた資料をざっと説明し、山口社長に渡した。そうして二人は山口饅頭堂を後にした。

 店舗に帰ってきた森川副店長は、ことの顛末を翔太に説明した。 結局どうなるかは、はっきりしなかったが、後日、江崎オーナーから連絡が来ることになっていると報告した。

◇◇◇

「立川さんご苦労様」事務所に入ってきた立川洋子に明日葉は声を掛けた。
「リーダーおはようございます」
「今日も暑いですね。こう暑い日が続くと、店外掃除はたいへんですよね」
「もう慣れましたから」
「朝の体操だけでも、汗だくになりそう」
「でもあの太極拳体操は子供に人気があるんですよ」
「そうなの?」
「子供の前で太極拳体操をすると、すぐにマネをしてくるの」
「へーそうなんだ」
「朝の体操は個人的にもいろいろと役に立っているわ。あの豆の木パン工房の奥さん、江崎さんと友達なって、子育てのことをいろいろ教えてもらったりしているの」
「そう言えば、江崎さんも毎日こられていますね」
 明日葉は毎朝、子供さんを連れて参加している江崎さんの愛想の良い笑顔が頭に浮かんだ。
「そうそう、それから、昨日の『廃棄野菜の朝市』も助かったわ。見てくれが悪いけど、細かく切ってしまえばわからないから。安いし、何と言っても新鮮なのが助かるわ」 と洋子は本当に嬉しそうに明日葉に話をした。
「立川さん、その話、今度西谷主任に言ってください。喜ぶと思いますよ」

 二人が話していると岡田リーダーが事務所に戻ってきた。
「立川さん、おはようございます。抹茶ラテの半額券、配れている?」
「はい、この間、説明をいただいた通り、『ワゴンのコーヒーマシーンが新しくなったので、キャンペーンです』ってお渡ししたら、みんなもらっていただけます。問題はありません」
「それは良かった。立川さんやみんなが頑張ってくれるから、お客様も増えてきているね」 と岡田リーダーが嬉しそうに言った。
「岡田リーダー、それ、感謝カードに書いて下さいね」
「書いてるよ。この前明日葉に書いた内容は、そんな感じだっただろう!」
「そうでしたっけ?」
 そう言って明日葉はニッコリ笑った。

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